ツボの位置 WHOが国際基準決定へ
ハリ(鍼)、灸などの治療に使う経穴(ツボ)の位置が国際的に統一されることになった。現在、ツボの位置は国によって異なり、それぞれ効用はあるものの、国際的な議論の場では混乱のもとになっていた。国際基準の設定で、ツボの科学的な解明や、西洋医学との融合が一段とすすむことが期待される。
日中韓で92個のツボの位置にずれ
ハリ、灸の治療では、ツボの位置のとり方が重要な意味をもっている。ところが、日中韓3か国で、合計361個のツボのうち約4分の1にあたる92個の位置にずれがあることが、世界保健機関(WHO)の調べでわかった。
たとえば、肝臓のはたらきをよくする「期門」は、乳首からまっすぐ下がった線上にあるが、中国では第6と第7肋骨の間であるのに対し、日本では第9肋骨の軟骨付着部下縁とされていた。
また、坐骨神経痛の治療に使われる「環跳」は、中国では股関節と尾骨を結んだ線を3等分し、股関節から3分の1のところとされるが、日本ではおしりの外側、ほぼ股関節と同じあたりとされてきた。
こうしたずれがあっても、ハリや灸の治療には問題はなく、効用もあるというが、国際的な研究や議論の場では、ツボの位置のずれが、しばしば混乱の原因となってきた。
このため、日中韓三か国の代表が2003年10月から、中国の古典『鍼灸甲乙経』(西暦280年頃)を参考に、国際基準の素案を協議してきた。会議では、しばしば激論がかわされたものの、92個あった位置のずれのうち86個については大筋で合意に達した。
こうした協議の結果は、2006年10月31日に茨城県つくば市で始まったWHOの「経穴部位国際標準化公式会議」で正式に採択された。また、合意に達しなかった6個のツボについてはそれぞれの意見を併記したうえで投票により順位を決めることとなった。今後、WHOによる正式発表を待って、臨床の場でも統一された国際基準が使われることになる。
体調、季節などによって位置がずれることもある
中国黒竜江省医学情報研究所所長、WHO研究員などを経て、現在、東京都渋谷区で鍼灸治療院院長を務める胡伊拉氏によると、ツボの位置のとり方は、今から約2500年前、東洋医学の原典である『黄帝内経』に記されたのが起源であるという。その後、韓国や日本にもさまざまな経路で伝わったが、日本は14世紀の中国の古典『十四経発揮』をもとにしているのに対し、中国はそれ以前の書物に基づき、また、韓国は独自にツボを特定してきた。
「ツボの位置のとり方は国によって決まっていますが、同一国内でも、臨床応用されるなかでさまざまな流派ができ、位置にずれが生じてきたと考えられます」と胡氏は話す。
また、胡氏によると、こうしたずれとは違って、同一の人でも、体調や季節などによってツボの位置にずれが生じることがあるという。
「人種や体形によって、また、同じ人でもその日の体調、季節による変動があります。ですから、臨床の場では、そのつどツボの位置を確認しています」と胡氏。治療時には、経験によってつちかわれた技術が大きな比重を占めているようだ。
西洋医学との融合で幅広い医療の可能性
これまで、ハリ、灸による治療については、科学的な解明があまりすすめられてこなかった。そのため、科学的根拠に乏しい治療法として、西洋医学より一段低く見られ、ときには民間療法と同列に並べられることもあった。それだけに、漢方医学の専門家からは、今回の決定を歓迎する声が多く聞かれる。
「漢方医学の国際交流に有益なのはいうまでもありません。また、鍼灸治療の生理作用や臨床効果に関する研究がすすんで科学的に解明されれば、西洋医学一辺倒であった医学者の間に漢方医学が浸透し、医学教育に漢方医学が導入されるようになるでしょう。さらに、医療を受ける側から見ると、選択の幅がさらに広がって、いっそう合理的な治療が受けられることになるといえます」と胡氏は国際基準の決定の意義を指摘している。
「暮しと健康」2007年2月号より
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