わが国は、アルコールに対して寛容な社会だといわれます。「あのときはお酒が入っていたもので...」とか「お酒の席でのことだから」と言えば、「それなら仕方がない」と許されてしまうこともあります。
そうした背景が、飲酒運転による事故の多発につながっていると指摘する声も少なくありません。 そもそも、お酒を飲んだら運転してはいけないことが分かっているのにハンドルを握る、あるいは、これから運転するのにお酒を我慢できないというところに問題があります。このように、やめておこうと思っても飲んでしまったり、お酒が原因で人間関係にひびが入ったりすることは、アルコール依存症に陥った人に見られる特徴です。専門家は、こうした問題を抱える人は年々増えていると指摘します。
わが国で唯一のアルコール依存症治療の基幹施設である独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター病院長の丸山勝也氏は、「現在、わが国のアルコール依存症者数は82万人に上ると推計される」と話します。これは、「国際疾病分類(ICD-10)」による診断基準(表1)を用いた調査によって算出された数値です。
「この調査は、アルコール依存症およびアルコールの有害な使用の実態を明らかにするために行われました。その結果、アルコール依存症者の割合は、成人男性の1.9%、女性の0.1%、成人全体の0.9%で、82万人に達すると推計されたのです」と丸山氏。
推計の域にとどまっているのは、実際にはアルコール依存症の状態にあって治療が必要であるにもかかわらず、治療に結びついていない人が多いためだと、丸山氏は指摘しています。
「精神科を受診しているアルコール依存症者は、厚生労働省の2002年患者調査で1万9900人と報告されていますが、これでは少なすぎるという印象が強いでしょう。 例えば、大量飲酒が原因で病気になる人は少なくありません。このなかにはアルコール依存症といえる人が少なくないはずなのですが、治療者側にその認識がないために、身体疾患の治療だけを行って、根本にあるアルコール依存症の治療が行われていないのが実態です。
これでは、一時的に飲めなくなった体を、再び飲めるようにしてあげているようなものです」 WHO(世界保健機関)の規定では、1日に純アルコールで150ml(日本酒換算で約5合)以上を飲む人を大量飲酒者と呼んでいます。
大量飲酒者が必ずしもアルコール依存症者であるとは限りませんが、アルコール消費量、飲酒者数、大量飲酒者数ともに年々増加しています。こうしたことがアルコール依存症者の増加の背景にある。