高知大学医学部神経精神科学教室の下寺信次准教授らが、うつ病と診断され、治療のための薬を服用している患者さん約300人、うつ病の患者さんを診察している内科医および精神科医約300人を対象に「痛み」について調べた結果があります。
それによると、約60%の患者さんが「痛み」を経験していましたが、「痛み」がうつ病の症状の一つであることを知っていた人は、「痛み」の経験のある人の中でも約22%しかいませんでした。
医師への質問で、うつ病の患者さんの多くに「痛み」があることを認識している人は、約34%でした。
また、「痛み」を経験している患者さんのうち、1年間に1カ月(31日)以上「痛み」が原因で会社を休んだ人は約52%、平均すると1年間に106.7日休んでいました。
多くの人が痛みのために、仕事や家事の能率が低下したと回答し、その能率低下度は平均していずれも50%以上であることもわかりました。
この調査から、患者さんは日常生活に支障をきたしていながら、痛みがうつ病の症状の一つであることを知らないために医師に伝えていない、そのために医師は患者さんに痛みが伴っていることに気づかず、痛みの治療が行われていないのではないかと考えられます。
さらにこの調査で、「身体的な痛みの治療が成功しないと再発リスクが増大するか」という医師への質問に、「強く同意する」と「同意する」の回答の合計は、約63%でした。
海外の研究でも、「痛み」の改善率が高かった患者さんのほうが、痛みの改善率の低い患者さんより、うつ病の寛解率が高まることがわかっています。また、痛みがあるとうつ病の寛解までに期間が多くかかること、寛解しないとうつ病の再発リスクが高いことも発表されています。
体の「痛み」までを考慮して治療しないと、うつ病は治りにくく、治っても再発しやすいといえます。体に慢性的な痛みを感じる場合は、医師にどこがどのように痛いかを伝えていくことが大切です。